2009年7月4日、「先端加速器科学技術推進シンポジウム2009 in 広島 宇宙の謎に挑む 日本の貢献」が、広島国際会議場(広島平和記念公園内)で開催されました。
[質問1]
加速器の精度を上げる難しさはどこにあるのでしょうか。
[回答]
たくさんありますが,たとえばリニアコライダーで電子と陽電子を衝突されるところでは,100億個の電子と陽電子の塊を5ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル。インフルエンザウイルスの大きさは100ナノメートルくらい)に絞り込みます。粒子の塊を5ナノメートルに絞ることも難しいし,またそれらを長期間安定に衝突させるためにはナノメートルでその位置を制御しなければなりません。これも大変難しい技術です。この技術について日本が世界のフロントランナーになっています。
[質問2]
粒子が衝突したときの観測した図の見方がよくわからなかったので,理解できるようであれば聞きたいと思います。
[回答]
図は,電子と陽電子の衝突によって,ヒッグス粒子できたとき, 測定器でどのように観測されるかをコンピューターでシミュレーションしたものです。
花火のように見えるいくつかの線は粒子が通過していった跡、軌跡を示しています。 測定器は,衝突点を囲むように作られていて、電気を持った粒子が通過したことがわかる仕掛けがしてあります。 たとえば、デジタルカメラに使われているCCDのような半導体が置かれていて、粒子はそこを通過するときに信号を出します。 また、たくさんのワイアーがはられている大きな空間にガスが入っていて、粒子が通過すると、ガスが電離してその信号を近くのワイアーが感知してその位置を知らせるものもあります。 測定器には通常、電磁石により磁場がかけられているので、電気をもった粒子の軌跡はその勢い(運動量)に応じて曲げられます。 また、測定器の一番外側には粒子のエネルギーを測定する装置が組み込まれています。 線の外側の赤いや黄色の四角はそれによって測定されたエネルギーで,四角の大きさがエネルギーの大きさに対応しています。 こうして反応によって生じたたくさんの粒子がどこを、 どれだけの運動量とエネルギーを持って通過していったかを、コンピューターで再現したものが、図です。 ヒッグス粒子が衝突で作られたとしても、 それはすぐにより軽い粒子に直ちに変わってしまうことがわかっています。 そこで、研究者は通過していった粒子の情報を組み合わせることで、それがもともとはヒッグス粒子から来ていたのではないかを検証します。実はこの図ひとつだけからでは、ヒッグス粒子が存在するかどうかは決まりません。こうした反応の図を数多く集めたとき、ある質量の粒子が集中的に作られ、そして、その生成頻度や、生成の角度分布などが、ヒッグス粒子の特性と同じだと判明して初めてヒッグス粒子ができたことが確認されます。
[質問3]
スバルは電子レンジのマイクロ波も影響するから近くに住んでいる人に使わないように呼びかけるという話を聞いたのですが本当ですか。
[回答]
デマですね。すばるでは夜食用に山頂に電子レンジがあります。山頂のマイクロ波を観測する電波望遠鏡では電子レンジの使用を自粛しているかもしれませんが、近所(といっても人が住んでいるのは50km以上さき)の人の生活に制限をお願いすることはありません。
[質問4]
次世代の30m級の望遠鏡に関する詳細を教えてください。
[回答]
日本が国際協力で建設を目指している30m望遠鏡TMTは、1.5mの六角形の鏡を492枚敷き詰めて主鏡とします。マウナケア山頂に2018年頃に完成することが期待されています。 ホームページをご覧下さい。
[質問5]
ハッブルなど宇宙からの観測もされていますが,地上からの観測でのメリットは何でしょうか。
[回答]
地上観測は新しい技術を後から付け加えることができますが、宇宙に挙げる望遠鏡では例外を除いて修理ができませんので、確立された古い技術で作る必要があります。また最大の違いはコストです。すばるの建設費は400億円でしたが、ハッブルではこの間のスペースシャトルでの修理ミッションだけで1000億円かかっています。ハッブルは打上から今までにかかった費用が数兆円と言われています。
[質問6]
ビッグバンの3億年後の最初の星を観測するためにはどのような技術が必要となりますか。
[回答]
これらの星は赤方偏移が大きいため赤外線での観測が重要となります。大気が邪魔になるので宇宙空間からの観測が有利ですが、地上の30m望遠鏡に補償光学を装備することでピンポイントの観測ができると,新しい発見があるかもしれません。
[質問7]
星は重いほど,輝いて寿命も短いと聞いたが,じゃあ,太陽はもうすぐなくなるんですか?光っているんじゃなくて燃えているから違うんですか?でも重いですよね。
[回答]
太陽は今46億歳であと50億年ほどは安定に輝きますので,心配しないで下さい。
[質問8]
宇宙空間は膨張し続けている中で,望遠鏡の精度を上げて遠くまで見ることは,いたちごっこではないのか?どんな意味があるのか?
[回答]
膨張には137億年かかっています。毎年宇宙の大きさが大きくなっていますがそれは1年あたり100億分の1程度でしかありません。望遠鏡の性能はこの100年で何万倍にもなりました。そのお陰で宇宙のことが良く分かってきたのです。いたちごっこになるほど宇宙の膨張は速くありません。
[質問9]
7の銀河が見つかりにくいのは「水素ガスがまだ存在していた可能生」との説明でしたが,最遠の星(134億年前?)が見つかっているのはなぜですか?最初の星は,銀河ではなく単体で誕生したのですか。
[回答]
我々が確認した129億年前の銀河より昔の時代の銀河や星は未だ確認できていません。134億年前には最初の星や銀河ができたはずだと理論的に考えられていますが、誰もまだ見ていないのです。単独ではなく、最初の星は原始的な銀河の中で生まれたと考えられています。
[質問10]
対案の大気を通って光が観測されているのを見れば,大気の組成が分かるのではないか。
[回答]
鋭いご指摘ですね。タイタンの大気を分光すると大気組成が分かります。
[質問11]
宇宙が晴れた後,銀河群,銀河,星はどの順で生成されてきたのか
[回答]
小さい構造から次第に大きな構造に発展したと考えられています。
[質問12]
水素ガスが集合するきっかけとなった,ゆらぎは?
[回答]
暗黒物質の密度のゆらぎが成長して、その濃い部分に物質も一緒に集まりやがて自らの重力で収縮するようになったと考えられています。
[質問13]
宇宙のパターン形成の原理は?
[回答]
万物にはゆらぎがありますが、そのゆらぎが成長したという考えです。
[質問14]
宇宙年齢はどうやって137億年と精度よく分かったのか(他の観測は誤差があるが?)
[回答]
宇宙年齢はハッブル定数の測定や球状星団の色等級図と星の進化モデルの比較などから求められてきましたが、誤差20~50%でしか決まっていませんでした。137億年と決まったのは宇宙背景放射異方性観測衛星が、宇宙のマイクロ波のゆらぎのパターンを 極めて精度良く測定し、そのパターンを説明するように膨張宇宙のモデルに登場する5つのパラメータを調整する過程で決まってきたものです。宇宙年齢の決定精度は現在2%程度にまでなったと考えられています。
[質問15]
すばるの補償光学装置で使う変形鏡はどうやって鏡をゆがませているのですか。
[回答]
電圧を変えると伸縮するピエゾ圧電素子(それもバイモルフ型)を188個貼り付けた薄い鏡を毎秒1000回制御して大気のゆらぎを打ち消しています。 詳しくは ホームページをご覧下さい。