2012年7月吉日

CERNでの発見に祝意

 

このたび,欧州のCERN研究所で行われているLHCからのヒッグス粒子とおぼしき新粒子の発見というニュースを聞き,まず関係各位にお祝いを申し上げたいと思います。

 思い返せば,我が国がLHC実験に正式に参加したのは,私が文部大臣だった1995年のこと。CERN理事会に出席し,ヨーロッパ以外の国として初めてその建設協力を表明したのが始まりでした。日本の研究者,企業の高い能力を活かす道が開け,世界が協力して今回の発見に行ったことはまことにうれしく思っています。
 今でも当時の事は鮮明に思い出されます。当時CERNの所長であったスミス氏は日本にも何度も足を運ばれ、このLHC計画のことでよく議論をしたものです。文部省も佐藤禎一氏をはじめ日本の参加の道を開くために力を尽くしてくれました。保利耕輔先生や多くの議員の方々に支えられ、当時の大蔵省も国税を人類の科学の基礎のために使う意義をよく理解してくれました。もしあのときに日本が参加していなければ、欧州だけの計画に留まり、そのあとの米国の参加もなかっただろうということです。LHC計画自体が縮小の危機にあっただけに、それ以来CERNからは日本の参加に今でも繰り返し最大限の感謝を表して頂いていますが、それ以上に、今回の発見に至る道のりで日本の企業の技術が心臓部を担い、多くの日本人が活躍したことが報道されるに至り、多くの国民が喜びを共有し、日本の力を再認識できたことは本当に素晴らしいことです。

 ヒッグス粒子は1960年代に確立した標準理論が予言する粒子です。その予言から50年近い努力によって今回ようやく発見されたわけです。しかし,CERNのホイヤー所長も言われているように,これは新たな始まりに過ぎません。素粒子・宇宙の謎の解明に向けて新しい展開が始まると期待しています。
我が国の素粒子物理学は,理論分野では,湯川先生,朝永先生,南部先生から,小林先生,益川先生にいたる,大きな実績を上げています。実験研究においても小柴先生のカミオカンデや,小林,益川両先生のノーベル賞受賞に大きな貢献をしたBファクトリーなど,世界最先端の研究を行って来ました。その伝統を受け継ぎ,次の時代を担うセンターを日本に造りたい,「この分野は日本に行く必要がある」という世界のセンター,国際リニアコライダー(ILC)を創りたいと考えています。
 このようなことを話すと,すぐに「何の役に立つのか」という問いが必ず来ます。19世紀の数学の成果が20世紀の科学に役に立ったように,純粋科学の成果はすぐにかえって来るものではありません。この基礎科学、基礎物理の世界は自然哲学の流れであり、古代のギリシャ時代以前から人類が追い求めてきた自然の摂理、宇宙の神秘に一歩でも近づこうとするものです。
 もちろん,アポロ計画で養われた技術から多くのスピンオフがうまれたように,ミクロンの精度で装置を設置する加速器やITの粋を集めた測定器の技術は私たちの社会に多くの貢献をすることは間違いありません。しかし,我が国の未来に向けて,世界に誇る最高レベルの学問と技術のセンターを創ることが本質です。

 今回のCERNの発見を契機に,是非日本に世界最高レベルの知能と技術を集結した国際センターの実現に向けて研究者,産業界,官界,政界が協力していっそうの努力をして行くべきだと思いますので、力を合わせて宜しく御願いいたします。

衆議院議員      与謝野馨

先端加速器科学技術推進協議会 最高顧問

リニアコライダー国際研究所建設推進議員連盟 最高顧問